ラーラは騎士団長を振り返り、それ以上喋るなと命じた。
「――騎士団長様、現在私と陛下が話している最中です」
人のよいこの騎士団長を、こちらの事情に巻き込むわけにはいかない。自分を庇って罰せられてほしくない。
「しかし!」
「口を謹んでください」
さすがに騎士団長がぐっと押し黙る。
ラーラは改めてイザークに向き直り、「姉は出発直前に病を得まして、私が代理として参りました」と頭を下げた。
「力不足かも知れませんが、お役に立てるよう精一杯励む所存です。どうぞお許しいただけないでしょうか」
再びイザークの目を真っ直ぐに見返す。
(……私の肩にはエオストレ王国の今後の平和が掛かっている)
それに、もう母国に帰る場所はない。ならば、この国で生きていくしかないのだ。
イザークはじっとラーラを見つめていたが、やがて「……なるほどな」と呟いた。
「まあ、俺は姉だろうが妹だろうがどちらでもよい。春の女神の血筋であればな。ただし、フロストの国益になればの話だ」
「……承知いたしております」
ラーラは声が震え出しそうになるのを何とか堪えた。
(……陛下の目が怖い)
鋭い氷の槍を思わせ、射抜かれて死んでしまいそうだ。強がってはいるものの、本当は今すぐ逃げ出したいくらいだ。
それでもなけなしの王女としての矜持で、必死にその場に立っていた。
「あっ」
騎士団長が小さく声を上げる。
「騎士団長様、どうか今は――」
ラーラは騎士団長を振り返って絶句した。レッドカーペットの両脇に並んだ二列の観葉植物――つい先ほどまでは葉しかなかったはずなのに、いつのまにか蕾がついていただけではない。ラーラの近くにある鉢植えから次々と開花し、瞬く間に謁見の間を色とりどりの花の香りで一杯にしたのだ。
イザークが今度こそ目を見開く。
「これは……」
「――騎士団長様、現在私と陛下が話している最中です」
人のよいこの騎士団長を、こちらの事情に巻き込むわけにはいかない。自分を庇って罰せられてほしくない。
「しかし!」
「口を謹んでください」
さすがに騎士団長がぐっと押し黙る。
ラーラは改めてイザークに向き直り、「姉は出発直前に病を得まして、私が代理として参りました」と頭を下げた。
「力不足かも知れませんが、お役に立てるよう精一杯励む所存です。どうぞお許しいただけないでしょうか」
再びイザークの目を真っ直ぐに見返す。
(……私の肩にはエオストレ王国の今後の平和が掛かっている)
それに、もう母国に帰る場所はない。ならば、この国で生きていくしかないのだ。
イザークはじっとラーラを見つめていたが、やがて「……なるほどな」と呟いた。
「まあ、俺は姉だろうが妹だろうがどちらでもよい。春の女神の血筋であればな。ただし、フロストの国益になればの話だ」
「……承知いたしております」
ラーラは声が震え出しそうになるのを何とか堪えた。
(……陛下の目が怖い)
鋭い氷の槍を思わせ、射抜かれて死んでしまいそうだ。強がってはいるものの、本当は今すぐ逃げ出したいくらいだ。
それでもなけなしの王女としての矜持で、必死にその場に立っていた。
「あっ」
騎士団長が小さく声を上げる。
「騎士団長様、どうか今は――」
ラーラは騎士団長を振り返って絶句した。レッドカーペットの両脇に並んだ二列の観葉植物――つい先ほどまでは葉しかなかったはずなのに、いつのまにか蕾がついていただけではない。ラーラの近くにある鉢植えから次々と開花し、瞬く間に謁見の間を色とりどりの花の香りで一杯にしたのだ。
イザークが今度こそ目を見開く。
「これは……」

