出がらし姫と蔑まれてきましたが、身代わりの嫁ぎ先で氷の帝王に溺愛されています。

――フロスト帝国の宮殿もまた帝国に相応しい規模で、もはやそれ自体が一つの街なのかと錯覚するほどの広さだった。

敷地面積は馬車でも数時間かかり、洗練されたデザインの離宮や回廊建築、噴水やボスケなどが設けられている。雪に覆われていても美しく見えるよう、デザインされているのが小憎らしい。

宮殿そのものも見事なもので、なんと部屋が一五〇〇近くあるのだとか。その中でも謁見の間は特に美しい一室として有名なのだという。

そして、ラーラは今その謁見の間の扉が開かれるのを、心臓をドキドキさせながら待っていた。

(大丈夫。大丈夫よ。ちゃんと話さえできれば)

騎士団長が両側から扉を開き、「中へどうぞ」とラーラを促す。ラーラが歩き出すと、その数歩あとを付いてきた。謁見の間でも護衛に徹するということなのだろう。

「失礼いたします」

ラーラはまず礼儀として深々と頭を下げると、中央のレッドカーペットの上を歩いて行った。その両脇には観葉植物の鉢が置かれている。

この国では緑や花が贅沢品だ。ゆえに王侯貴族の宮殿や屋敷には、輸入された春の国の植物が並べられている。

ラーラは玉座の数メートル手前で一旦跪き、立ち上がってドレスの裾を摘まんだ。

「エオストレ王国第二王女、ラーラにございます」

「面を上げろ」

よく通って艶のある声だったが、トーンは低く冷たい。

ラーラは恐る恐る顔を上げ、玉座に腰を下ろしたその男を見上げて息を呑んだ。

(この方が……氷の皇帝イザーク様……)