出がらし姫と蔑まれてきましたが、身代わりの嫁ぎ先で氷の帝王に溺愛されています。

「その上滲み出る知性や気品といい、エオストレ国王が手放しがたくなるはずです」

「……」

「陛下もお喜びになることでしょう。いや、ご結婚式が今から楽しみです」

ラーラは少々面食らっていたが、すぐにそうか、これはお世辞だと頷いた。いくら地味な王女だとがっかりしていても、それを顔に出すわけにはいかなかったのだろう。

「ありがとうございます」

ひとまず礼を述べて微笑みを浮かべる。

「砦へ行きましょう。温かいお茶と軽食を用意してございます。二時間ほど後に雪が止むはずなので、その頃に出発予定です」

「承知しました」

「雪に足を取られないように気を付けて。……!?」

騎士団長がラーラの足下を何気なく見て、息を呑んでその場に立ち尽くす。

「どうしました?」

ラーラも釣られて目を落として驚いた。

つい先ほどまで雪に覆われていたはずなのに、いつの間にか雪が溶けて土が見えている。それも、自分の半径一メートルの周辺だけ。

更にその土からたちまち草花が芽吹き、小さな緑の楽園へと生まれ変わったのだ。たった数十秒間の出来事だった。

「これが……春の女神の力……」

騎士団長だけではなく、部下の騎士たちも全員目を瞬かせている。

「花を見るのは何年ぶりだ?」

「奇跡だ。まさに春の女神の再来……」

度肝を抜かれたのは騎士たちだけではない。ラーラ自身もだった。

ラーラにも異能はあったが、必死に集中しなければ発動せず、発動したところでその力は花の種を一つ芽吹かせる程度でしかなかった。

なのに、たった今意識していなかったのに、クラウディア並の異能が顕現したのだ。

(ど、どうして? 今までこんなに力が強くなったことはなかったのに)

わけがわからない。

一方、騎士たちは尊敬と称賛の眼差しを一斉に向けた。

「ささ、姫君、中へどうぞ!」

「お部屋も温かくしておりますので!」

こうして下にも置かぬ歓待ぶりで、ラーラはフロスト帝国に迎え入れられたのだった。