【完】ハルくんの、かくしごと。




駅に着くと、柱によりかかっている荻原くんを発見。

片手でスマホをいじりながら、もう片方の手で軽く手を振ってくる。



「急に呼び出して、どうしたの?」


「ケーキ食べたくなって」


「荻原くんは、私じゃなくても相手いそうだけど~」



ちょっとむくれてそう言うと、ふっと笑って――



「千秋ちゃんと食べるのが一番うまいんだって」



いちいち、ドキッとするの、やめてほしい。

今日は、メイクがうまくいかなかった。 髪だって、まとまらない。

でも、さっきまで重かった気持ちが、少し楽になった。不思議。



「いこ」



そう言って、さりげなく手を繋ぐ。

付き合ってはいない。でも、この左手にだいぶ慣れた。
気づいたら、ハルくんじゃない人の左手。こうやって、慣れていくのかな、と思う。

荻原くんの手は、ハルくんと違う。ほんのり暖かくて、ゴツゴツしている。

ハルくんと違って、素直で、器用で、不真面目。でも、荻原くんはそこがいいなと思う。

ハルくんと距離をとっている間、何度もこうして手を繋いで帰ったし、休日にデートらしきものもした。

最初から変わらずスマートで、気が利く。意外と、男らしい。

好きになりかけてる、きっと。一緒にいたら、いちいちドキッとするようなことしてくるし。一緒にいて、なんだかんだ楽しいし。

これが、恋というものなんだろう、と思う。