今日は移動教室がなくて、教室を出ずにすんだ。
そのおかげで、ちあの顔を見ることもなかった。
ただ、荻原とは同じクラスだから、いやでも視界に入る。
何でもないフリをして過ごした。気づかれたくなかった。誰にも。
放課後、帰ろうとした瞬間――目の前に荻原。最悪だ。
「なんか用?」
声が自然と尖る。
「ちょっと話したいことあるんだけど、いい?」
胡散臭い笑顔が、うざい。
ため息をついて、黙ってついていく。
空き教室に連れてこられ、荻原が口を開いた。
「今日の朝、たまたま駅で千秋ちゃんに会って。 千秋ちゃん、泣いてたんだけど」
「……へー」
「えー、知らないフリすんの?聞いたよ、全部」
「…なに?殴りに来た?」
「そんなことしないよー、めんどいし」
ちあは、こいつのどこが好きなの。
胡散臭い笑顔を、誰にでも振りまいてるようなこいつの、どこが。



