【完】ハルくんの、かくしごと。




あいた右手をポケットに突っ込みながら、電車に乗り込む。

なんとなく今日は、比較的空いている気がした。

吊り革を握る必要もなく、空いた席がちらほら目に入る。

いつもなら、混雑の中で人の肩に押されながら立っているのに―― 今日は違う。

ちあと一緒に電車に乗る理由をなくされたような、そんな気持ちになる。

窓の外を眺めても、街並みはいつも通り流れていく。

でも、心の中は空っぽで、昨日の記憶だけが重く沈んでいる。



「……俺、何やってんだろ」



小さく呟いた声は、電車の揺れにかき消された。


学校に着くと、自然と気が張った。

どこかにいるんだろうけど、会いたくない。顔なんて、見たくない。

多分、荻原と一緒にいる。そんな光景は簡単に想像できてしまう。

死んでも、見たくない。

廊下を歩くたびに、誰かの笑い声が耳に刺さる。

その中に、ちあの声が混じっているような気がして、思わず足を止めそうになる。



机に座っても、ノートを開いても、 頭の中は昨日のことと、今の想像でいっぱいだった。

心臓が痛くて、呼吸が浅くなる。



「佐々木、お前の幼なじみって荻原と付き合いだしたの?」



前の席のクラスメイトが、俺の心情も知らずに軽く聞いてくる。

「知らない」と答えておく。