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「荻原くん、かっこよくてね。隣にいるだけでドキドキするの。どうやったら緊張しなくなるかな?」
なんでもないように言う、この女。
最近は、触れてくることはなくなった。
それでも、あいかわらず無許可で俺の部屋にあがりこんでくる。
何考えてんのか分からない。
無理。
「ドキドキする」なんて、軽く言えるものなのか。
俺は、そんな簡単に口にできない。
隣にいるだけで、息が詰まるのは俺の方。
「……それを、世間では好きって言うんじゃねーの」
「へ…?」
「他の男の話、俺にしてくんなよ」
どうしようもなく嫉妬して、キスしたあの日。
違う人じゃない、現実で――ちあに唇をぶつけたあの日。
嫌われる覚悟で、幼なじみをやめる覚悟で、キスをした。
ほんと、もうどうでもよくて。
今まで、大事にして、手を出さずにきたことがバカらしく思えた。
守ってきた距離も、抑えてきた衝動も、全部。
それなのに、次の日には―― 「ハルくんのせいで、柳くんと別れたんだから」 なんて、普通の顔で言うから。
その普通さに、腹が立った。
俺がキスしても、何事もなかったみたいにしている。
その態度が、心底気に食わない。
ちあが別れた理由なんて、隠し事ができない性格だから、ただそれだけに尽きると思う。
決して、俺のことが好きだからとか、そういうことじゃない。



