野いちご源氏物語 四五 橋姫(はしひめ)

大君(おおいぎみ)が筆をおとりになって、(すずり)に何かお書きになる。
「この紙にお書きなさい。硯に書いてはいけませんよ」
(みや)様が紙をおあげになると、恥ずかしがりながらお書きになった。
「とても育たないような運命でしたのに、どうしてここまで生きてこられたのでしょう。これからどうしたらよいか分らず、ぷかぷかと()かんでいる水鳥のようです」
どたどしい内容だけれど、父宮(ちちみや)のお胸をうつ。

中君(なかのきみ)もお書きなさい」
父宮に言われて、中君はもう少し幼い字で、時間をかけて書いていかれる。
「お父様のおかげでここまで大きくなりました」
姫君(ひめぎみ)たちのお着物は古ぼけて、おそばに女房(にょうぼう)などもいない。
寂しくご退屈(たいくつ)な毎日が続くなか、姫君たちのおかわいらしいご様子が宮様にはお苦しい。

(きょう)の本を片手に持って読みながら、姫君たちのために楽譜(がくふ)を歌っておあげになる。
大君は琵琶(びわ)、中君は(そう)でいつも合奏していらっしゃる。
まだ幼いけれどお上手にお()きになるのよ。