野いちご源氏物語 四五 橋姫(はしひめ)

母宮(ははみや)様のお屋敷にお帰りになると、まず遺品(いひん)の袋をご覧になる。
上等な布で仕立てられていて、しっかりと(ふう)がしてあるの。
開けるのも恐ろしいような気がなさる。

緊張しながら開封なさなると、衛門(えもん)(かみ)様がお受け取りになった、(おんな)(さん)(みや)様からのお手紙が五、六通入っていた。
それとは別に、衛門の督様の筆跡(ひっせき)で書かれたお手紙もある。
女三の宮様に()てた遺書(いしょ)だった。
「病気は重く、死が近づいています。これが最後のお手紙になるでしょう。お子を無事にご出産なさったとのこと。死ぬ間際(まぎわ)になってあなたに会いたい理由が増えました。(あま)になってしまわれたことは悲しいけれど」

何枚かの紙に(みだ)れた字で書かれていて、最後に、
「この世をお捨てになったことをご自分でも悲しいとお思いでしょうが、そんなあなたにお目にかかれず死んでいく私はもっと悲しいのです。生まれたお子は源氏(げんじ)(きみ)のお子として育つのですね。私が将来を心配するまでもないのですが、生きてさえいれば遠くから見守れたのにと残念です」
とあった。

古い手紙だから(むし)()いがある上にかび臭い。
でも、(すみ)で書かれた文字ははっきりと残っていて、たった今書かれたような生々しさがある。
<たしかにこれが他人に見つかっていたら大変なことになっただろう>
(かおる)(きみ)がはらはらなさるほどお気の毒なお手紙だった。