野いちご源氏物語 四五 橋姫(はしひめ)

「まだ聞いていたいけれど、つづきは改めて静かなときに話しておくれ。小侍従(こじじゅう)と呼ばれていた母宮(ははみや)乳母子(めのとご)のことは私も聞いたことがある。たしか私が幼いころに胸の病気で亡くなったとか。それにしても、こうして本当の父君(ちちぎみ)のお話が聞けてよかった。知らないままだったら(おや)不孝(ふこう)の重い(つみ)になるところだった」

「どうぞお受け取りくださいませ。『いよいよ死にそうだ』とおっしゃって、大切なお手紙をすべて私にお預けなさったのです」
(かおる)(きみ)はさりげなく袋を取って、お着物のなかにお隠しになった。
<大丈夫だろうか。年寄りは聞かれもしない昔話を勝手にするものだというから、この調子で他の人にもべらべらと話してしまうのではないか>
と不安になる一方で、
<いや、他人には()らさないと何度も(ちか)っていたのだから信用してよいだろう>
とも迷って、思い乱れなさる。