野いちご源氏物語 四五 橋姫(はしひめ)

明け方近くなったころ、(かおる)(きみ)は前回の宇治(うじ)での朝を思い出された。
さりげなく音楽の話題を出してから、
「そういえば、この間こちらにお(うかが)いした際、姫君(ひめぎみ)たちの演奏が少しだけ聞こえたのです。めずらしい音色でしたがどのような楽器なのでしょうか。あれからずっと気になっております」
とお尋ねになった。

(はち)(みや)様は単純な音楽のお(さそ)いと受け取られる。
出家(しゅっけ)した者に音楽はふさわしくありませんから、昔に習ったことも忘れてしまいましたが」
とおっしゃりながら、(きん)をお取り寄せになった。
「ひとりで()くのは不安ですから、さぁ、あなたも」
と、薫の君に琵琶(びわ)をおすすめになる。

薫の君は少し弾いて、すぐにお手を止められた。
「先日お聞きした琵琶と同じ楽器だとは思えません。もっとすばらしい音色でしたのに。楽器がよいのだろうと思っておりましたが、姫君の演奏がお上手だったのですね」
「いやいや、とんでもない。こんな山奥で育った姫に、あなたにほめていただくような技術はありませんよ」
八の宮様は苦笑して琴をお弾きになる。
もともと名人でいらっしゃる上に、山から吹き下ろす風が音色を引き立てているの。
それでも宮様は思い出しながら弾くようなふりをなさって、一曲だけでおやめになってしまった。