野いちご源氏物語 四五 橋姫(はしひめ)

十月になってしばらくすると、(かおる)(きみ)宇治(うじ)を訪問なさった。
(りょう)見物(けんぶつ)がおもしろい季節でございます」とおすすめした家来たちもいたけれど、薫の君はそういうものがお好きではない。
「はかない魚が漁師(りょうし)(つか)まるところを見ても楽しくない。無力な魚を自分と重ねてしまうではないか」
いつものようにこっそりとお出かけになる。
ご身分に似合わない質素(しっそ)な乗り物にお乗りになって、お着物は地味に仕立てたものをお召しになっている。

(はち)(みや)様は待ちかねていらっしゃって、およろこびになる。
地元の食材を使ったお料理で風情(ふぜい)あるおもてなしをなさった。
日が暮れると、(あか)りを近くに寄せて仏教の書物をご覧になる。
お招きになった山寺の阿闍梨(あじゃり)に、書物の内容の深い部分を解説させなさる。

八の宮様も薫の君も真剣に聞き入っていらっしゃる。
少しも眠くなどおなりにならない。
荒々しい風で木の葉が散る音が聞こえる。
川音も恐ろしいほどで、心細い雰囲気の山荘(さんそう)なの。