野いちご源氏物語 四五 橋姫(はしひめ)

(きり)はあいかわらず深い。
山のお寺とは霧と雲で完全に(へだ)たっている。
<このような寂しいところにご姉妹だけとは。何を思ってお暮らしになっているのだろう。お心細くて引きこもっていらっしゃるのも当然だ>
(はち)(みや)様がいらっしゃるお寺の方を見上げて、姫君(ひめぎみ)たちに同情なさる。

「帰り道も分らないほどの霧ですね」
姫君たちのお部屋をふり返っておっしゃる。
出発できるだろうかとためらうお姿は、美しい若者を見慣れた(みやこ)の人でさえはっとするほどご立派よ。
まして田舎(いなか)暮らしの女房(にょうぼう)たちは、見とれてしまってお返事も申し上げられない。
大君(おおいぎみ)(ひか)えめにお答えなさった。
「秋はとくに霧が濃くなります。この季節にお寺にお(こも)りになりますと、ますます父宮(ちちみや)が遠くに思われまして」
(なげ)くようにおっしゃったご様子が、しみじみと上品でいらっしゃる。