野いちご源氏物語 四五 橋姫(はしひめ)

「こちらにお仕えするようになって五、六年になりますが、以前は亡き衛門(えもん)(かみ)様のところで女房(にょうぼう)(づと)めをしておりました。私の母が衛門の督様の乳母(めのと)だったのです。お(うわさ)はお聞きになったことがおありですか。紅梅(こうばい)大臣(だいじん)様の兄君(あにぎみ)で、若くしてお亡くなりになった方でございます。

お亡くなりになったのはつい先日のことのような気がいたしますが、あれからもう二十年以上が()ちました。あなた様がこうして大人になっていらっしゃるくらいですものね。衛門の督様は乳母子(めのとご)の私をご信頼くださいまして、人に言えない打ち明け話をなさることもありました。お亡くなりになる直前には、あなた様に関するご遺言(ゆいごん)を私になさったのです。

もし最後まで知りたいとお思いでしたら、あらためてゆっくりとお聞かせいたしましょう。今は若い女房たちがこちらを気にしております。『お客様と長話をするなんて失礼な年寄りだ』と言わんばかりの顔で聞き耳を立てておりますから」
話は中途半端で終わってしまった。