野いちご源氏物語 四五 橋姫(はしひめ)

(ろう)女房(にょうぼう)は泣き出した。
「女房が()()ぎたまねをしてはいけないと悩みながらも、どうしてもあなた様にお伝えしたい昔のお話があるのです。長年仏様にお祈りしていたご利益(りやく)で、ついにこうしてお目にかかれましたのに、いざとなると涙があふれてとても申し上げられません」
と言って(ふる)えている。

<年老いた人は涙もろくなると言うが、これはふつうではない>
何の話だろうかと不審(ふしん)にお思いになる。
「たびたびこちらにお(うかが)いしていますが、そなたのように(なつ)かしい話ができる人がいなくて寂しかったのですよ。せっかく会えたのですから、どうぞ聞かせてください」
老女房は何度かうなずいた。
「これを(のが)せば二度とお話しできないかもしれません。いつ死んでもおかしくない身ですから、この機会に年寄りの話をお耳に入れましょう」