野いちご源氏物語 四五 橋姫(はしひめ)

若い女房(にょうぼう)たちはまったくお相手ができない。
気を失いそうなほど緊張(きんちょう)しているから、奥にいる(ろう)女房(にょうぼう)大君(おおいぎみ)は呼びにいかせなさった。
でも、もう寝ているようでなかなか出てこない。
もったいぶっていると思われてはよくないだろうと、大君が直接お返事なさる。
「世間のことを何も知らずに暮らしておりますから、(わけ)()(がお)でお答えすることはできません」
たしなみ深く上品なお声がかすかに聞こえた。

「気づかないふりをなさるのですね。深窓(しんそう)姫君(ひめぎみ)としてはごもっともなお返事ですが、あなた様にはそのような無難(ぶなん)なお返事は似合いません。あの(さと)()まされた父宮(ちちみや)様とお暮らしなのですから、あなた様だって何もかもお悟りになっているでしょう。私の真剣(しんけん)な気持ちにもお気づきのはずです。

どうか世間の好色(こうしょく)な男たちと一緒にしないでください。私の(うわさ)はお耳に入っているのではありませんか。周りがどれほど(すす)めても、結婚さえしない変わり者なのです。ただぼんやりと人生が終わるのを待っているだけですから、退屈な日々のことをお話しする相手がほしいのです。きっとあなた様も同じ退屈を(かか)えていらっしゃるでしょう。そのご退屈しのぎのお相手にしていただければ幸いです」

あまりに一気にお話しになるので、大君はお返事のしようがない。
やっと出てきた老女房に薫の君を(まか)せて、お部屋の奥へお下がりになった。