野いちご源氏物語 四五 橋姫(はしひめ)

そこはお庭を仕切る垣根(かきね)に戸がつけられているところだった。
(かおる)(きみ)が戸を少し押し開けると、向こう側の建物に女房(にょうぼう)たちの姿が見える。
月に(きり)がかかっているのを(なが)めているらしく、(すだれ)が巻き上げてあるの。
()(えん)に出ている女童(めのわらわ)女房(にょうぼう)はとても寒そう。
その奥の縁側(えんがわ)姫君(ひめぎみ)たちがいらっしゃる。

琵琶の姫君は柱の(かげ)になっているけれど、ばちを持ったお手が見える。
空に向けてゆらゆらと動かしていらっしゃるの。
雲に隠れていた月がふいに現れて、急にあたりが明るくなった。
「まぁ、(おうぎ)ではなくてばちでも月を招けるのね」
かわいらしいお声で言いながら、柱の陰からお顔をお出しになる。
上品で華やかな姫君よ。

筝の姫君がほほえんでおっしゃる。
「有名な(まい)の振り付けで似たようなものがあるけれど、あれはたしか(しず)んでいく夕日をばちで呼び戻すのではなかったかしら。月を招くだなんて、おもしろいことを思いつく人ね」
琵琶の姫君よりも落ち着いた雰囲気の、貴婦人(きふじん)らしい姫君でいらっしゃる。
「当たらずとも遠からずでしょう。ばちをしまっておく部分は『隠月(いんげつ)』というのだもの」
くすくすと笑いながら冗談を言いあっているご様子がとてもお美しい。
こんな山深いところに似合わない姫君たちなの。

女房(にょうぼう)が読み聞かせてくれた昔話でも、田舎(いなか)に思わぬ姫君が住んでいるということがよくあった。実際はそんなことがあるはずないと思っていたが、いるところにはいるのだ>
薫の君はもう目を離すことがおできにならない。