そこはお庭を仕切る垣根に戸がつけられているところだった。
薫の君が戸を少し押し開けると、向こう側の建物に女房たちの姿が見える。
月に霧がかかっているのを眺めているらしく、簾が巻き上げてあるの。
濡れ縁に出ている女童や女房はとても寒そう。
その奥の縁側に姫君たちがいらっしゃる。
琵琶の姫君は柱の陰になっているけれど、ばちを持ったお手が見える。
空に向けてゆらゆらと動かしていらっしゃるの。
雲に隠れていた月がふいに現れて、急にあたりが明るくなった。
「まぁ、扇ではなくてばちでも月を招けるのね」
かわいらしいお声で言いながら、柱の陰からお顔をお出しになる。
上品で華やかな姫君よ。
筝の姫君がほほえんでおっしゃる。
「有名な舞の振り付けで似たようなものがあるけれど、あれはたしか沈んでいく夕日をばちで呼び戻すのではなかったかしら。月を招くだなんて、おもしろいことを思いつく人ね」
琵琶の姫君よりも落ち着いた雰囲気の、貴婦人らしい姫君でいらっしゃる。
「当たらずとも遠からずでしょう。ばちをしまっておく部分は『隠月』というのだもの」
くすくすと笑いながら冗談を言いあっているご様子がとてもお美しい。
こんな山深いところに似合わない姫君たちなの。
<女房が読み聞かせてくれた昔話でも、田舎に思わぬ姫君が住んでいるということがよくあった。実際はそんなことがあるはずないと思っていたが、いるところにはいるのだ>
薫の君はもう目を離すことがおできにならない。
薫の君が戸を少し押し開けると、向こう側の建物に女房たちの姿が見える。
月に霧がかかっているのを眺めているらしく、簾が巻き上げてあるの。
濡れ縁に出ている女童や女房はとても寒そう。
その奥の縁側に姫君たちがいらっしゃる。
琵琶の姫君は柱の陰になっているけれど、ばちを持ったお手が見える。
空に向けてゆらゆらと動かしていらっしゃるの。
雲に隠れていた月がふいに現れて、急にあたりが明るくなった。
「まぁ、扇ではなくてばちでも月を招けるのね」
かわいらしいお声で言いながら、柱の陰からお顔をお出しになる。
上品で華やかな姫君よ。
筝の姫君がほほえんでおっしゃる。
「有名な舞の振り付けで似たようなものがあるけれど、あれはたしか沈んでいく夕日をばちで呼び戻すのではなかったかしら。月を招くだなんて、おもしろいことを思いつく人ね」
琵琶の姫君よりも落ち着いた雰囲気の、貴婦人らしい姫君でいらっしゃる。
「当たらずとも遠からずでしょう。ばちをしまっておく部分は『隠月』というのだもの」
くすくすと笑いながら冗談を言いあっているご様子がとてもお美しい。
こんな山深いところに似合わない姫君たちなの。
<女房が読み聞かせてくれた昔話でも、田舎に思わぬ姫君が住んでいるということがよくあった。実際はそんなことがあるはずないと思っていたが、いるところにはいるのだ>
薫の君はもう目を離すことがおできにならない。



