野いちご源氏物語 四五 橋姫(はしひめ)

乗り物も質素(しっそ)に馬でお行きになった。
都から宇治へ向かう道中(どうちゅう)はなかなか大変だったわ。
(きり)()くて道も良く見えないところを分け入っていくと、荒々しい風に吹かれて高い木から(つゆ)が落ちてくる。
冷たく()れてしまわれて、(かおる)(きみ)は苦笑なさった。
<まるでこっそりと恋人の家を訪れる男のようだ>
普段はなさらないことだから、心細いけれどおもしろく感じて、
「木の葉の露は風のせいで落ちるが、私の涙はどうしてこぼれるのだろう」
とつぶやかれる。

山のなかに住む者たちが目を覚まさないように、静かに進んでいかれた。
足元に浅く水が流れているところでは、馬の足音も立てないように気を(つか)われる。
それほど人目(ひとめ)(しの)んだご移動だったけれど、薫の君の香りだけは隠しようがない。
風に乗って近くの家々に届くから、目を覚まして不思議がる住民もいたくらい。