野いちご源氏物語 四五 橋姫(はしひめ)

山深いところへお引越しになったのだから、ますますお訪ねする人はいない。
地元の者だけがたまにお出入りする。

宇治(うじ)(やま)の奥に、優秀な僧侶(そうりょ)が住んでいた。
世間からも尊敬される人ではあるけれど、朝廷(ちょうてい)儀式(ぎしき)のような(かた)(くる)しい場には出ずに、山で修行(しゅぎょう)をしている。
その僧侶のことは、敬意(けいい)をこめて「阿闍梨(あじゃり)」とお呼びしましょう。
阿闍梨(あじゃり)(はち)(みや)様が近くに引っ越していらしたことを聞いた。
寂しいご様子で修行やお(きょう)の勉強をなさっているというから、<なんとご立派な>と尊敬して、たびたび山荘(さんそう)をお訪ねする。

正妻(せいさい)を亡くされてから、宮様はおひとりでお経の勉強をなさっていた。
阿闍梨(あじゃり)はさらに深い解説をしながら、
「この世はほんの一時(いっとき)の、仮の住まいです」
というようなことを申し上げる。
まさに宮様が日ごろお感じになっていることだから、<この阿闍梨(あじゃり)になら>と打ち明け話をなさる。
「私の心は出家(しゅっけ)しているも同然(どうぜん)なのですが、幼い姫たちを見捨てることだけが心配なのです。それでいまだに出家できずにいます」