野いちご源氏物語 四五 橋姫(はしひめ)

ひっそりお暮らしになっていたある日、お屋敷が火事で焼けてしまった。
ただでさえおつらい世の中なのに、これでは()()ちよね。
ふさわしいお引越し先は(みやこ)のなかにはなくて、宇治(うじ)というところにある山荘(さんそう)にお移りになることになった。
僧侶(そうりょ)のように何にも執着心(しゅうちゃくしん)を持たない(みや)様でも、さすがに都を離れるのは悲しくお思いだった。

山荘の近くの宇治(うじ)(がわ)は流れが激しい。
騒々(そうぞう)しい川音(かわおと)は静かなお暮らしの邪魔だったけれど、他にどうしようもない。
山荘らしい花や紅葉(もみじ)でお気を(まぎ)らわせてぼんやりとお暮らしになる。
<こんな山里(やまざと)暮らしでも、亡き妻が一緒だったなら>
とばかりお考えになっている。
「妻も屋敷も(けむり)になったというのに、どうして私だけ消えずに残っているのだ」
もう生きている甲斐(かい)もないと、亡きご正妻(せいさい)を恋しくお思いになる。