野いちご源氏物語 四五 橋姫(はしひめ)

そのころ、世間から忘れ去られた、ある親王(しんのう)様がいらっしゃった。
お年は五十代かしら、亡き源氏(げんじ)(きみ)弟宮(おとうとみや)であられる方よ。
(はち)(みや)様と呼ばれていらっしゃる。
母君(ははぎみ)はご身分の高い方だったから、「東宮(とうぐう)(くらい)にお()けしよう」というお話もあったけれど、結局それは(かな)わなかった。

中途半端にかつぎ上げられただけになってしまって、周りから人がすうっと引いていった。
八の宮様は、内裏(だいり)はもちろん個人的なお付き合いでも頼れる人がいなくなって、どなたからも見放(みはな)されたご境遇(きょうぐう)になってしまわれた。

正妻(せいさい)大臣(だいじん)()姫君(ひめぎみ)で、「いずれは東宮(とうぐう)()になるかもしれない」というご両親の期待を背負っていらっしゃった。
そのご期待を裏切ることになったと思うとおつらいけれど、ご夫婦仲はよくて、お互いに頼りあってお暮らしになっていた。