野いちご源氏物語 四四 竹河(たけかわ)

夕霧(ゆうぎり)大臣(だいじん)様のご子息(しそく)中将(ちゅうじょう)様も、昇進(しょうしん)のご挨拶(あいさつ)にやっていらっしゃった。
今も新女御(にょうご)様への恋心を忘れていないから、お(さと)()がりなさっていると聞いて、緊張してお越しになる。
「上級貴族の一員(いちいん)に加えていただきましたが、内裏(だいり)での出世などうれしいとも思えないのです。それよりも、個人的な願いの(かな)わなかったことだけがいつまでも胸に残って、年月が()つほどに私を苦しめます」
わざとらしいほど大げさに涙をおぬぐいになる。
二十七、八歳の(おとこ)(ざか)りで、華やかに美しい方よ。

だけれど玉葛(たまかずら)(きみ)は苦々しくご覧になっている。
<立派なご両親に守られて、甘やかされて育った人だ。世の中は何でも思いどおりになると信じているらしい。だから出世などどうでもよいと平気で言えるのだろう。亡き夫が生きていれば、私の息子たちだってこんなふうに呑気(のんき)に暮らしていられただろうに。出世できるかどうかなど気にせず、恋にうつつを抜かして>
三人のご子息たちがかわいそうで、ついお泣きになる。
それぞれご出世なさってはいるけれど、なかなか上級貴族になれないことを玉葛の君をお(なげ)きなの。
(すだれ)のむこうで中将様は、まだあれこれ(うら)(ごと)をおっしゃっている。