「出世したことはそれほどうれしいとも思わないのですが、こちらには真っ先にご挨拶を申し上げようとやってまいりました。嫌がるだなんてとんでもございません。それともご無沙汰しておりましたことへの皮肉でしょうか」
年の離れた姉君に甘えるようにおっしゃる。
「今日はおめでたい日ですから、年寄りの愚痴などお聞かせしてはいけないと思ったのですけれどね。こうしてお立ち寄りくださることも近ごろはめったにありませんし、お手紙でお願いするわけにもいかないことですから、思い切って申し上げます。
実は、上皇様に差し上げた長女のことで悩んでいるのです。あちらのお住まいで他のお妃様たちとうまくやっていけず、居場所がないようでして。ご結婚させる前は、私の腹違いの妹にあたる女御様を頼りにしておりました。中宮様にもきっとお許しいただけるだろうと甘く考えていたのです。
それが、皇子様をふたりもお生みしたことで、叔母女御様も中宮様も長女を無礼者とお思いらしいのですよ。困ったことになりました。本人があまりにつらそうにしていますから、皇子様たちはあちらに置いて、長女だけを里下がりさせたのですが、それがまたお妃様たちのお気に召さなかったようなのです。上皇様まで『そのような里下がりはよくない』と仰せだとか。
何かのついでに、あなた様から上皇様へこの状況をご説明してくださいませんか。叔母女御様や中宮様が優しくしてくださるだろうと期待してご結婚させるなんて、本当に身の程知らずで愚かなことをいたしました」
簾のむこうで泣いていらっしゃるみたい。
「そこまで思いつめなさることではないと存じます。お妃様同士のいざこざは昔からよくあることです。もう帝の位をお降りになった上皇様ですから、お妃様たちは激しい競争を終えてどなたも仲良くなられたように見えますが、実際はそうでもないのでしょう。他人が見れば別に問題のない行為でも、損をした人にとっては恨めしいものです。ささいなことでいちいちお心を動かすのは、お妃様たちの習慣のようなものなのかもしれません。
いざこざをまったく覚悟せず上皇様に差し上げなさったのですか。そうではいらっしゃらないでしょう。それならば、ただ穏やかにお見守りになるのが一番です。男の私が口をはさむことではありません」
あまりにばっさりとお断りになるから、玉葛の君はつい笑ってしまわれる。
「お会いできたら愚痴を聞いていただこう、同情もしていただこうとお待ちしておりましたのに、まぁ、ばっさり」
娘のために深刻に悩む母君のお顔は消えて、少女のようにおっとりとした口調でおっしゃる。
こちらが本当のご性格なのよね。
<きっと新女御様もこういう女性でいらっしゃるのだろう。近ごろ私が宇治の姫君に惹かれているのも、同じ魅力を感じているからだ>
と薫の君も微笑みをお返しになる。
このとき、ご次女の新尚侍様も里下がりなさっていた。
おふたりは昔の姫君時代のようにのんびりとお暮らしになっている。
その雰囲気を感じると、薫の君は気恥ずかしさを隠すために、いつも以上に大人びたお振舞いをなさる。
<この人を婿として迎えていたらよかったかもしれない>
玉葛の君はため息をついてご想像なさる。
年の離れた姉君に甘えるようにおっしゃる。
「今日はおめでたい日ですから、年寄りの愚痴などお聞かせしてはいけないと思ったのですけれどね。こうしてお立ち寄りくださることも近ごろはめったにありませんし、お手紙でお願いするわけにもいかないことですから、思い切って申し上げます。
実は、上皇様に差し上げた長女のことで悩んでいるのです。あちらのお住まいで他のお妃様たちとうまくやっていけず、居場所がないようでして。ご結婚させる前は、私の腹違いの妹にあたる女御様を頼りにしておりました。中宮様にもきっとお許しいただけるだろうと甘く考えていたのです。
それが、皇子様をふたりもお生みしたことで、叔母女御様も中宮様も長女を無礼者とお思いらしいのですよ。困ったことになりました。本人があまりにつらそうにしていますから、皇子様たちはあちらに置いて、長女だけを里下がりさせたのですが、それがまたお妃様たちのお気に召さなかったようなのです。上皇様まで『そのような里下がりはよくない』と仰せだとか。
何かのついでに、あなた様から上皇様へこの状況をご説明してくださいませんか。叔母女御様や中宮様が優しくしてくださるだろうと期待してご結婚させるなんて、本当に身の程知らずで愚かなことをいたしました」
簾のむこうで泣いていらっしゃるみたい。
「そこまで思いつめなさることではないと存じます。お妃様同士のいざこざは昔からよくあることです。もう帝の位をお降りになった上皇様ですから、お妃様たちは激しい競争を終えてどなたも仲良くなられたように見えますが、実際はそうでもないのでしょう。他人が見れば別に問題のない行為でも、損をした人にとっては恨めしいものです。ささいなことでいちいちお心を動かすのは、お妃様たちの習慣のようなものなのかもしれません。
いざこざをまったく覚悟せず上皇様に差し上げなさったのですか。そうではいらっしゃらないでしょう。それならば、ただ穏やかにお見守りになるのが一番です。男の私が口をはさむことではありません」
あまりにばっさりとお断りになるから、玉葛の君はつい笑ってしまわれる。
「お会いできたら愚痴を聞いていただこう、同情もしていただこうとお待ちしておりましたのに、まぁ、ばっさり」
娘のために深刻に悩む母君のお顔は消えて、少女のようにおっとりとした口調でおっしゃる。
こちらが本当のご性格なのよね。
<きっと新女御様もこういう女性でいらっしゃるのだろう。近ごろ私が宇治の姫君に惹かれているのも、同じ魅力を感じているからだ>
と薫の君も微笑みをお返しになる。
このとき、ご次女の新尚侍様も里下がりなさっていた。
おふたりは昔の姫君時代のようにのんびりとお暮らしになっている。
その雰囲気を感じると、薫の君は気恥ずかしさを隠すために、いつも以上に大人びたお振舞いをなさる。
<この人を婿として迎えていたらよかったかもしれない>
玉葛の君はため息をついてご想像なさる。



