野いちご源氏物語 四四 竹河(たけかわ)

年が明けた。
一晩かけておめでたい歌を歌って回る行事が行われる。
音楽や(まい)が得意な若い貴族の多いころだったから、一団(いちだん)()りすぐりの人たちばかりよ。
(かおる)(きみ)は歌を、少将(しょうしょう)様は楽器を担当なさる。
月の光が華やかな夜、一団は内裏(だいり)でのご披露(ひろう)を終えて、上皇(じょうこう)様のお住まいに回った。
懐妊(かいにん)中の新女御(にょうご)様も見物をなさる。
一団の若者たちを見回すと、お美しい人はみんな、夕霧(ゆうぎり)大臣(だいじん)様や紅梅(こうばい)大臣様のご一族なの。
やはり特別なご両家(りょうけ)ね。

内裏で帝にご披露したときよりも、上皇様にご披露する方がどなたも緊張するみたい。
気を(つか)って音楽や舞をお(つと)めになる。
なかでも少将様は、新女御様もご覧になっているだろうかと思うと落ち着かない。
竹河(たけかわ)』という歌を歌いながら建物に近寄っていくところでは、
<あれはもう一年前、玉葛の君のお屋敷で薫の君と(はち)()わせた夜も『竹河』を歌ったのだった。あのころはまだ、まさかこんなことになるとは予想していなかった>
と思い出してしまわれる。
振り付けを間違えそうなほど動揺(どうよう)して涙ぐまれるの。

それから一団は、上皇様の中宮(ちゅうぐう)様のお住まいに回ってご披露する。
上皇様も移動してご一緒に見物なさった。
少将様の動揺は収まらず、足元がふらふらなさる。
夜が()けるほど月の光は明るくなって、周りの人が少将様のご様子を(あや)しんでいる。