野いちご源氏物語 四四 竹河(たけかわ)

夫君(おっとぎみ)は生前(せいぜん)、かならず姫君(ひめぎみ)を入内(じゅだい)させたいと帝(みかど)にお願いなさっていた。
帝はそれを覚えていらっしゃって、
「そろそろ入内させてもよい年になっただろう」
と玉葛(たまかずら)の君(きみ)に何度もおっしゃる。

だからといって素直に入内させようとはお思いになれない。
<後宮(こうきゅう)には明石(あかし)の中宮(ちゅうぐう)様が君臨(くんりん)なさっていて、とても他のお妃(きさき)様は勝負できないと聞く。その一番下に加わり、もし中宮様からにらまれるようなことがあってはかわいそうだ。後見(こうけん)してくれる父親もなく、心細そうにしている様子を見るのはこちらもつらい>
どうしたものかとお悩みになる。

上皇(じょうこう)様からも熱心に仰(おお)せがある。
帝であられたころ、玉葛の君をお妃様にできなかったことをいまだに恨(うら)んでいらっしゃるの。
「帝の位(くらい)を降(お)りて、ずいぶん年もとってしまいましたが、父親代わりと思って私にお預けになっては」
優しくおっしゃるので、玉葛の君のお心は揺(ゆ)れる。
<どうしたらよいのだろう。夫との結婚は私が望んだことではなかったけれど、上皇様は私を無礼(ぶれい)な女だとお思いだろう。私も老(お)い先(さき)短いのだから、ご希望どおりに長女を差し上げて、最後に見直していただこうか>
と決めかねていらっしゃる。