野いちご源氏物語 四四 竹河(たけかわ)

お屋敷にお帰りになると、ご兄弟たちは参内(さんだい)の準備で忙しくなさっている。
今日から季節は夏になるので、内裏(だいり)でいろいろな行事があるの。
少将(しょうしょう)様は内裏へ上がる気分にはなれず、何もかもが嫌になってぼんやりしていらっしゃる。

そのお姿に母君(ははぎみ)雲居(くもい)(かり)は涙ぐまれる。
父君(ちちぎみ)夕霧(ゆうぎり)大臣(だいじん)様は、
玉葛(たまかずら)(きみ)が今さらご結婚の話を取り消すことはないだろう。そんなことをすれば上皇(じょうこう)様がどうお思いになるか、そのくらいの分別(ふんべつ)はつく女性だ>
と冷静にお考えになりながらも、やはり後悔するお気持ちはある。
「しまったことをしたな。新年のご挨拶(あいさつ)(うかが)ったときに話を出しておけばよかった。私から強くお願いすれば、きっと許してくださっただろうに」
と残念そうにおっしゃる。

(あきら)めきれない少将様は、また姫君(ひめぎみ)にお手紙をお書きになった。
「桜を遠くから(なが)めているうちに春が終わりました。花が散ったあとに青々とした葉が(しげ)る季節ですが、私の心は晴れません」
という(うら)(ごと)を、昨夜の女房(にょうぼう)()てに届けさせなさる。