野いちご源氏物語 四四 竹河(たけかわ)

<もう無駄(むだ)だろうが、少しの(うら)(ごと)は申し上げよう>
いつものように玉葛(たまかずら)(きみ)のご三男をお訪ねになると、ご三男はお手紙を読んでいるところだった。
さっとお隠しになったから、
(かおる)(きみ)からの手紙だろう>
と、少将(しょうしょう)様は取り上げてしまわれる。

あまりにさりげない恨み言のお手紙だった。
「あなた様に冷たくされたまま春が終わろうとしています」
何の苦しみも(なげ)きも感じられない文面(ぶんめん)なの。
<薫の君は恨み言さえ優雅でいらっしゃる。それに比べて私はどうだ。なりふり構わずいつも(あせ)っている男だから()(くだ)されてしまったのだろう>
お胸が痛くて、それ以上ご三男のところにはいられない。

ひそかに恋人にしていた女房(にょうぼう)の部屋へお入りになる。
仲介(ちゅうかい)役をしてもらおうと機嫌(きげん)をとっていた女房だけれど、今日はひたすら愚痴(ぐち)を聞かせなさる。
ご三男は薫の君のお手紙を持って玉葛の君のところへ行かれたみたい。
お返事をご相談なさるのでしょうね。
<薫の君など本気で求婚なさっていたわけでもないのに、大切に(あつか)われていらっしゃる>
自尊心(じそんしん)が傷つけられて、若いお心にはいらだちだけがたまっていく。