野いちご源氏物語 四四 竹河(たけかわ)

源氏(げんじ)(きみ)がお亡くなりになったあと、よその家にもいろいろなことがあったの。
紅梅(こうばい)大臣(だいじん)様のご家族のお話をしたから、次は玉葛(たまかずら)(きみ)のご家族のことをお話ししようかしら。
玉葛の君は亡き太政(だいじょう)大臣(だいじん)様の姫君(ひめぎみ)だけれど、(わけ)あってしばらく源氏(げんじ)(きみ)がお世話なさっていた。
今の上皇(じょうこう)様が(みかど)であられたころに尚侍(ないしのかみ)という上級女官(にょかん)になって、帝はお(きさき)様にしたいとお思いだったけれど、当時の大将(たいしょう)様が強引にご自分のものしてしまわれたの。

大将様は今の帝の伯父君(おじぎみ)で、そのあと太政大臣にまでご出世なさった。
玉葛の君はお幸せにお暮らしかと思いきや、何年か前に夫君(おっとぎみ)を亡くされた。
ご結婚後すぐ生まれた若君(わかぎみ)おふたりはもう三十歳近いから、それぞれ結婚して自立なさっている。
問題は遅くに生まれた姫君おふたりで、こちらはまだ十代後半。
どのようなご結婚をさせたらよいか玉葛の君は頭を悩ませていらっしゃる。
その下にご三男もいらっしゃるけれど、男の子だから結婚よりはむしろ内裏(だいり)でのご出世がどうなるか。
でもこれはもう兄君(あにぎみ)たちに(まか)せるしかないわ。
やはりご将来をなんとかしてあげなければと心配なのは、断然(だんぜん)姫君たちね。

夫君はご長女を入内(じゅだい)させるつもりで張り切っておられた。
姫君のご成長を早く早くと待ちかねていらしたけれど、あえなくお亡くなりになると、入内の計画は立ち消えになってしまった。
夫君のご遺産(いさん)で経済的には豊かだけれど、やはり主人が亡くなった家に世間は冷たい。
お屋敷のなかも静かで寂しくなっていく。

紅梅の大臣様をはじめ、玉葛の君には腹違いの弟君(おとうとぎみ)がたくさんいらっしゃる。
でも、高貴な方々はご姉弟(きょうだい)とはいえ親しくお付き合いなさるものではない。
しかも亡き夫君が気性(きしょう)の激しい方だったから、弟君たちはこのご一家と少し距離を置いておられたの。
そういうわけで、世間だけでなくお身内ともほとんど交流がないお暮らしをなさっている。

唯一(ゆいいつ)夕霧(ゆうぎり)の大臣様だけはきちんとご機嫌(きげん)(うかが)いにいらっしゃる。
短い間とはいえ姉弟として六条(ろくじょう)(いん)でご一緒にお暮らしになったし、源氏の君がご遺言(ゆいごん)で玉葛の君を養女(ようじょ)としてお(あつか)いなさったのだもの。
まるで実の弟君のように玉葛の君を(うやま)って気にかけていらっしゃる。