野いちご源氏物語 四四 竹河(たけかわ)

そんなふうに春を楽しく過ごされていた姫君(ひめぎみ)たちだけれど、いよいよ桜が散りはじめた。
風が荒々しく吹く夕方、散っていくのが()しくて姉姫君(あねひめぎみ)がおっしゃる。
「風音が気になってしまうわ。私を見捨てて妹のものになった桜だと分かってはいるけれど、かわいそうで」
女房(にょうぼう)が、
「咲いたかと思えばすぐに散ってしまうような花ですもの、桜など妹姫(いもうとひめ)様におあげになってもどうということはございません」
と強気で申し上げる。

妹姫君(いもうとひめぎみ)は、
「どんな花でも風で散っていくもの。散ったあとの枝も私のものですよ。お(くや)しいでしょう」
と、かわいらしい得意顔をなさる。
「桜はきちんと心得(こころえ)て、妹姫(いもうとひめ)様のお部屋の方にむかって散っております。お池に落ちた花びらもこちら側へ集まってまいりましょう」
女房がそう言うと、女童(めのわらわ)がお庭に下りていった。
桜の下を歩きまわって、たくさんの花びらを拾ってくる。
「大空の風に散っても、みんな妹姫様のものでございます」
姉姫君の負けず嫌いな女童が言い返す。
「散った花びらをせこせこ集めてまわるなんて、心の(せま)い人ね」