野いちご源氏物語 四四 竹河(たけかわ)

兄君(あにぎみ)たちがいらっしゃらなくなると、姫君(ひめぎみ)たちは囲碁(いご)を再開なさった。
「あの桜の木を()けて三番勝負にいたしましょう」
と楽しそうにお始めになる。
なかなか勝負が決まらないまま日が暮れていく。
女房(にょうぼう)たちはそれぞれの主人の応援に夢中になっている。

そのご様子を、誰も気づいていないけれど、少将(しょうしょう)様がこっそりと(のぞ)いておられるの。
本当はご三男を訪ねていらっしゃったのよ。
でも、ご三男は兄君たちと出かけてお留守だったから、どうしようかと思っているときに、廊下の奥の戸が開いたままになっていることにお気づきになったみたい。
<まるで仏様に出くわしたような奇跡だ>
なんて大げさに感動なさるのだから、(かな)わぬ恋ってお気の毒よね。

夕暮れ時ではっきりとは見えない。
じっとご覧になっていると、ご長女の桜色のお着物が見えた。
<あの方を(なが)めていられれば、桜が散っても寂しくはない>
そう思うと、自分以外の男性とご結婚なさることがますますお悲しい。

くつろいだ姿の若い女房たちが見守るなか、ついにご次女がお勝ちになった。
「お祝いの笛と太鼓(たいこ)はまだかしら」
女房が冗談を言う。
(みかど)御前(ごぜん)での勝負ならお祝いの音楽が演奏されるところだから、「遅いわね」なんて得意顔で言っているの。

「あの桜はもともと妹姫(いもうとひめ)様のものだったのですよ。姫様のお部屋のそばにあるのに、姉姫(あねひめ)様のものとおっしゃるのが無理だったのです」
姉姫君の女房にむかって高らかに勝利宣言をする。
<何の話か分からないが楽しそうだ。ここで私が来ていることを知らせたら水を差してしまうだろう>
少将様はそっと立ち去りなさった。
また同じような機会があるかもしれないと、それからはこそこそとお屋敷をお訪ねになる。