野いちご源氏物語 四四 竹河(たけかわ)

おふたりが縁側(えんがわ)にお上がりになると、(すだれ)のむこうから和琴(わごん)が差し出された。
(かおる)(きみ)少将(しょうしょう)様はお互い(ゆず)り合って()こうとはなさらない。
見かねた玉葛(たまかずら)(きみ)が、
「薫の君の和琴は亡き太政(だいじょう)大臣(だいじん)様の音色に似ているとか。ぜひお聞かせください。(うぐいす)がよい声で鳴いておりますから、あの鳴き声につられたということになさって」
とすすめておっしゃる。

いつまでも恥ずかしがっているべきではないから、真剣にというのではなく、さりげなく弾いてごらんになる。
それでもよい音色が響く。
亡き太政大臣様は玉葛の君の実父(じっぷ)ではあるけれど、ほとんどお会いすることのないまま玉葛の君はご結婚なさった。
恋しい親というわけではないものの、もうこの世にいらっしゃらないと思えば心細くもおなりになる。

父君(ちちぎみ)よりも亡き衛門(えもん)(かみ)様の音色にそっくりだこと。父君のご長男で、そう、ちょうど薫の君がお生まれになったころに若くしてお亡くなりになった方ですよ。その方がここに現れたかと思いました」
まさに薫の君の本当の父親のお名前を出して、玉葛の君はお泣きになる。
涙もろさも奇妙(きみょう)(かん)(するど)さも、お年をお召しになったせいかしら。