野いちご源氏物語 四四 竹河(たけかわ)

玉葛(たまかずら)(きみ)は少し離れたお部屋にいらっしゃったから、そちらに(かおる)(きみ)をお呼びになった。
階段を上がって()(えん)にお座りになる。
お庭の梅のつぼみはわずかにふくらんで、(うぐいす)がまだ初々しい声で鳴く。
()まし顔で玉葛の君を待っていらっしゃるので、女房(にょうぼう)たちは少し困らせてみたいような気がしてくる。
ちょっとした冗談を申し上げる女房もいるけれど、一言二言でさりげなくかわされてしまう。

このままではつまらないと、()()な上級女房が声をおかけした。
「まだお若いから緊張していらっしゃるのね。そんなにお行儀(ぎょうぎ)よくなさらないで。梅の枝は、折って自分のものにするとよりいっそうよい香りがするのですよ。あなた様を恋人にしたらどんなふうかしら、いっそうよい香りがするのかしらと私たちをどきどきさせてくださらなくては」

<うまいことを言う>
と薫の君は感心なさって、
「まるで()()のような男だと思っておられるのでしょうが、そんなことはありませんよ。あなたたちのご存じないところではいろいろあるのです。近づいて(そで)の香りを確かめてごらんになりますか」
と少し挑発(ちょうはつ)(てき)なことをおっしゃる。
めずらしいご態度に女房たちは色めきだって、本当にお袖を引きそうなほどお近くに寄っていく。