会場は混乱の渦中にあった。
父の怒声と御曹司の非難、ざわめく招待客たち。
そのすべてを背に、私は悠真の手を強く握りしめていた。
「莉子! 考え直せ!」
父の声が轟く。
「家の未来を捨ててまで、その男に何がある!」
御曹司が冷たく嗤った。
「彼は副社長であっても、結局は使用人にすぎません。あなたにふさわしいはずがない」
怒りと蔑みが重くのしかかる。
けれど、私はもう揺れなかった。
「……違います」
震える声で、私ははっきりと告げた。
「彼は、立場ではなく、私の心をずっと守ってくれていた人です」
御曹司の顔色が変わり、父が眉をひそめる。
会場中が静まり返り、次の言葉を待っていた。
「十年前の雨の日……私は、彼を好きだと伝えられなくて、『忘れる』と口にしました」
喉が熱くなり、涙がこぼれる。
「でも……忘れたことなんて、一度もなかった」
ざわめきが広がる。
悠真が息を呑んで、私を見つめていた。
「私は……彼が、初恋でした」
その一言で、胸が解き放たれるのを感じた。
十年分の痛みと後悔を、やっと言葉にできた。
悠真の瞳が揺れ、唇が震える。
次の瞬間、彼は私を強く抱き寄せた。
「莉子……」
低く、掠れた声。
「俺もだ。十年前からずっと……お前だけだった」
耳元に届くその言葉に、全身が震える。
「忘れられるわけがない。お前が『忘れる』と言ったあの日から……俺はお前を取り戻すためだけに生きてきた」
涙があふれ、声にならない嗚咽が漏れた。
会場中の視線も、父の怒りも、御曹司の嘲りも、もうどうでもよかった。
私は腕を回し、彼にしがみついた。
「ごめんなさい……! ずっと忘れたふりをして……あなたを苦しめて……」
「いい。もういい」
悠真の手が私の背を包み込む。
「これからは、俺の隣で笑ってくれれば、それでいい」
その言葉に、胸の奥が熱で満ちる。
父が叫んだ。
「許さん! そんな勝手は——」
けれど、会場にいた重鎮たちが口々に囁き合い始めた。
「娘の意思を無視するのは……」
「十年の想い……」
「むしろ彼の方が相応しいのでは」
ざわめきは父の声を掻き消し、流れは変わりつつあった。
私は父をまっすぐに見つめた。
「父様。私はもう、“社長令嬢”としてではなく、一人の女性として生きます」
その瞬間、父の顔が苦悩に揺れた。
怒りだけではなく、初めて娘の意思を真正面から突きつけられた戸惑いが見えた。
悠真が私の手を取り、会場の中央に立った。
彼の声がはっきりと響く。
「俺は彼女を幸せにする。地位も名誉も失っても構わない。……それでも、彼女を手放すことはない」
沈黙のあと、会場は大きな拍手に包まれた。
父はなお険しい顔を崩さなかったが、その怒声はもう響かなかった。
私と悠真は視線を重ねた。
嵐の日から始まった初恋は、すれ違いと誤解を経て、ようやく重なった。
「悠真さん……」
「莉子……」
二人の声が重なり、涙と笑みが混ざる。
長い年月を超えて、ようやく“真実の告白”が交わされた瞬間だった。
父の怒声と御曹司の非難、ざわめく招待客たち。
そのすべてを背に、私は悠真の手を強く握りしめていた。
「莉子! 考え直せ!」
父の声が轟く。
「家の未来を捨ててまで、その男に何がある!」
御曹司が冷たく嗤った。
「彼は副社長であっても、結局は使用人にすぎません。あなたにふさわしいはずがない」
怒りと蔑みが重くのしかかる。
けれど、私はもう揺れなかった。
「……違います」
震える声で、私ははっきりと告げた。
「彼は、立場ではなく、私の心をずっと守ってくれていた人です」
御曹司の顔色が変わり、父が眉をひそめる。
会場中が静まり返り、次の言葉を待っていた。
「十年前の雨の日……私は、彼を好きだと伝えられなくて、『忘れる』と口にしました」
喉が熱くなり、涙がこぼれる。
「でも……忘れたことなんて、一度もなかった」
ざわめきが広がる。
悠真が息を呑んで、私を見つめていた。
「私は……彼が、初恋でした」
その一言で、胸が解き放たれるのを感じた。
十年分の痛みと後悔を、やっと言葉にできた。
悠真の瞳が揺れ、唇が震える。
次の瞬間、彼は私を強く抱き寄せた。
「莉子……」
低く、掠れた声。
「俺もだ。十年前からずっと……お前だけだった」
耳元に届くその言葉に、全身が震える。
「忘れられるわけがない。お前が『忘れる』と言ったあの日から……俺はお前を取り戻すためだけに生きてきた」
涙があふれ、声にならない嗚咽が漏れた。
会場中の視線も、父の怒りも、御曹司の嘲りも、もうどうでもよかった。
私は腕を回し、彼にしがみついた。
「ごめんなさい……! ずっと忘れたふりをして……あなたを苦しめて……」
「いい。もういい」
悠真の手が私の背を包み込む。
「これからは、俺の隣で笑ってくれれば、それでいい」
その言葉に、胸の奥が熱で満ちる。
父が叫んだ。
「許さん! そんな勝手は——」
けれど、会場にいた重鎮たちが口々に囁き合い始めた。
「娘の意思を無視するのは……」
「十年の想い……」
「むしろ彼の方が相応しいのでは」
ざわめきは父の声を掻き消し、流れは変わりつつあった。
私は父をまっすぐに見つめた。
「父様。私はもう、“社長令嬢”としてではなく、一人の女性として生きます」
その瞬間、父の顔が苦悩に揺れた。
怒りだけではなく、初めて娘の意思を真正面から突きつけられた戸惑いが見えた。
悠真が私の手を取り、会場の中央に立った。
彼の声がはっきりと響く。
「俺は彼女を幸せにする。地位も名誉も失っても構わない。……それでも、彼女を手放すことはない」
沈黙のあと、会場は大きな拍手に包まれた。
父はなお険しい顔を崩さなかったが、その怒声はもう響かなかった。
私と悠真は視線を重ねた。
嵐の日から始まった初恋は、すれ違いと誤解を経て、ようやく重なった。
「悠真さん……」
「莉子……」
二人の声が重なり、涙と笑みが混ざる。
長い年月を超えて、ようやく“真実の告白”が交わされた瞬間だった。

