夏の暑い日、お池を見ながら涼んでいらっしゃると、花盛りの蓮がお目に留まった。
極楽浄土に咲く蓮を想像して悲しくなってしまわれる。
とくに何をするわけでもなくぼんやりなさっているうちに日が暮れていく。
蜩が華やかに鳴くなかで、撫子の花が夕日に照らされて美しい。
でもおひとりでご覧になってもつまらないの。
「今日もただ泣いて終わってしまった。蜩までうるさく鳴かずともよいのに」
愚痴をこぼされても、優しいことを言ってくださる方はもういない。
薄暗くなるとたくさんの蛍が飛びかう。
妻との別れを悲しむ中国の詩をくちずさまれる。
紫の上がお亡くなりになってから、昔の和歌も詩も、そういう内容のものばかり思い出されるの。
「蛍が思いに身を焦がすのは夜だけだが、私は一日中悲しい」
この独り言もまた、夜の闇に消えていく。
七夕の日も音楽会などはなさらない。
一日何もせずお暮らしになって、早々とご寝室にお入りになった。
織姫と彦星が一年ぶりに再会するのを見ようなんてお思いになれないし、女房たちもそうだったみたい。
眠りは浅く、深夜に目が覚めてしまわれた。
縁側の戸をそっとお開けになると、お庭の花に露がたくさん降りているのが見える。
「雲の上で再会をよろこんだ恋人たちも、もう別れの時間だろう。ふたりの涙であるこの露に、さらに私の涙も加わっていく」
濡れ縁に立ちつくしてお目をぬぐわれる。
極楽浄土に咲く蓮を想像して悲しくなってしまわれる。
とくに何をするわけでもなくぼんやりなさっているうちに日が暮れていく。
蜩が華やかに鳴くなかで、撫子の花が夕日に照らされて美しい。
でもおひとりでご覧になってもつまらないの。
「今日もただ泣いて終わってしまった。蜩までうるさく鳴かずともよいのに」
愚痴をこぼされても、優しいことを言ってくださる方はもういない。
薄暗くなるとたくさんの蛍が飛びかう。
妻との別れを悲しむ中国の詩をくちずさまれる。
紫の上がお亡くなりになってから、昔の和歌も詩も、そういう内容のものばかり思い出されるの。
「蛍が思いに身を焦がすのは夜だけだが、私は一日中悲しい」
この独り言もまた、夜の闇に消えていく。
七夕の日も音楽会などはなさらない。
一日何もせずお暮らしになって、早々とご寝室にお入りになった。
織姫と彦星が一年ぶりに再会するのを見ようなんてお思いになれないし、女房たちもそうだったみたい。
眠りは浅く、深夜に目が覚めてしまわれた。
縁側の戸をそっとお開けになると、お庭の花に露がたくさん降りているのが見える。
「雲の上で再会をよろこんだ恋人たちも、もう別れの時間だろう。ふたりの涙であるこの露に、さらに私の涙も加わっていく」
濡れ縁に立ちつくしてお目をぬぐわれる。



