賀茂神社のお祭りの日も、源氏の君は二条の院に籠っていらっしゃる。
<祭り見物で世間は楽しそうにしているだろう>
なつかしい賀茂神社やお祭りのにぎわいを思い出しておられる。
「女房たちはつまらないだろう。こんなところで年寄りの世話をしていなくともよい。こっそり里に下がって見物しておいで」
やさしくおっしゃるので、若い女房たちはうきうきと出かけていった。
人気が少なくなったお屋敷の端で、中将の君はうたた寝をしている。
そっと近寄ってご覧になると、小さく可憐な様子で体を起こした。
赤くなった寝起きの顔は隠しているけれど、乱れた髪が美しく着物にかかっている。
落ち着いた色の着物も乱れていて、脱いだ上着をあわてて羽織ろうとするの。
賀茂神社のお祭りに付き物の葵がそばに置いてある。
源氏の君はお手に取って、
「この花は何と言うのだったかな。名前を忘れてしまった」
とおっしゃる。
もちろん本当に忘れてしまわれたわけではないわ。
「葵」は「恋人に会おう」というのに似ているから、「そなたに会うのをすっかり忘れていた」ということを匂わせていらっしゃる。
「お心が悲しみで曇って、花の名前も私のこともお忘れになったのでございましょう」
恥ずかしそうに申し上げる姿に源氏の君のお気持ちが揺れる。
「何もかもどうでもよいと捨ててしまったけれど、そなただけは手放せないようだ」
この中将の君にだけはご愛情をお分けになるみたい。
<祭り見物で世間は楽しそうにしているだろう>
なつかしい賀茂神社やお祭りのにぎわいを思い出しておられる。
「女房たちはつまらないだろう。こんなところで年寄りの世話をしていなくともよい。こっそり里に下がって見物しておいで」
やさしくおっしゃるので、若い女房たちはうきうきと出かけていった。
人気が少なくなったお屋敷の端で、中将の君はうたた寝をしている。
そっと近寄ってご覧になると、小さく可憐な様子で体を起こした。
赤くなった寝起きの顔は隠しているけれど、乱れた髪が美しく着物にかかっている。
落ち着いた色の着物も乱れていて、脱いだ上着をあわてて羽織ろうとするの。
賀茂神社のお祭りに付き物の葵がそばに置いてある。
源氏の君はお手に取って、
「この花は何と言うのだったかな。名前を忘れてしまった」
とおっしゃる。
もちろん本当に忘れてしまわれたわけではないわ。
「葵」は「恋人に会おう」というのに似ているから、「そなたに会うのをすっかり忘れていた」ということを匂わせていらっしゃる。
「お心が悲しみで曇って、花の名前も私のこともお忘れになったのでございましょう」
恥ずかしそうに申し上げる姿に源氏の君のお気持ちが揺れる。
「何もかもどうでもよいと捨ててしまったけれど、そなただけは手放せないようだ」
この中将の君にだけはご愛情をお分けになるみたい。



