二条の院にいらっしゃるとお気持ちは沈む一方なので、三の宮様を連れて六条の院にお行きになった。
春の御殿には出家なさった女三の宮様が若君とお暮らしになっている。
三の宮様はさっそく若君とはしゃいで、桜の花が散るのを心配していたことなどすっかりお忘れなの。
尼宮様は仏像の前でお経を読んでいらっしゃるところだった。
<それほど仏教に興味がおありだったとは思えないが、この世に未練もなくて、今やすっかり修行に集中なさっている。うらやましいのと同時に、深い考えもなく出家しただけの女性に置いていかれている悔しさもある>
少し苦々しいお気持ちでご覧になる。
仏様にお供えしてある花が夕日に照らされて美しい。
「よい花ですね。春が好きだった人が亡くなりましたから、どの花を見てもつらくなってばかりでしたが、こうして仏様にお供えしてあると美しいと思えます」
ひさしぶりにお言葉がするすると出てくる。
「あの人の住んでいた離れの前にはめずらしいほど立派な山吹がありましてね。房の大きさが並外れているのです。上品に咲くつもりなどない花なのでしょうが、華やかでにぎやかという点ではとてもおもしろい花です。植えた人がもうこの世にいないとは知らず、これまで以上にみごとに咲いているのが健気ですよ」
「尼の私のところには春はやってまいりませんから」
お返事はそれだけで、源氏の君はがっかりなさる。
<紫の上はいつも私に寄り添って返事をしてくれた。幼いころから賢く聡明で、優しい人柄だった>
お振舞いやお言葉を思い出されるうちに、また涙がこぼれ落ちる。
春の御殿には出家なさった女三の宮様が若君とお暮らしになっている。
三の宮様はさっそく若君とはしゃいで、桜の花が散るのを心配していたことなどすっかりお忘れなの。
尼宮様は仏像の前でお経を読んでいらっしゃるところだった。
<それほど仏教に興味がおありだったとは思えないが、この世に未練もなくて、今やすっかり修行に集中なさっている。うらやましいのと同時に、深い考えもなく出家しただけの女性に置いていかれている悔しさもある>
少し苦々しいお気持ちでご覧になる。
仏様にお供えしてある花が夕日に照らされて美しい。
「よい花ですね。春が好きだった人が亡くなりましたから、どの花を見てもつらくなってばかりでしたが、こうして仏様にお供えしてあると美しいと思えます」
ひさしぶりにお言葉がするすると出てくる。
「あの人の住んでいた離れの前にはめずらしいほど立派な山吹がありましてね。房の大きさが並外れているのです。上品に咲くつもりなどない花なのでしょうが、華やかでにぎやかという点ではとてもおもしろい花です。植えた人がもうこの世にいないとは知らず、これまで以上にみごとに咲いているのが健気ですよ」
「尼の私のところには春はやってまいりませんから」
お返事はそれだけで、源氏の君はがっかりなさる。
<紫の上はいつも私に寄り添って返事をしてくれた。幼いころから賢く聡明で、優しい人柄だった>
お振舞いやお言葉を思い出されるうちに、また涙がこぼれ落ちる。



