野いちご源氏物語 四〇 幻(まぼろし)

年末が近づいて源氏の君はますます心細くなっていかれるけれど、(さん)(みや)様は無邪気(むじゃき)に走り回っていらっしゃる。
大晦日(おおみそか)には大きな音を立てて(おに)を追い出すでしょう。何を(たた)いたら一番大きな音がするだろうか」
大きな音が鳴りそうなものを見つけては叩いてごらんになる。

<宮様とも間もなくお別れだ。かわいらしいご様子をもう見られない>
出家(しゅっけ)して俗世間(ぞくせけん)との(えん)をお切りになることは、やはり寂しくお悲しい。
「恋をして、苦しんで、悩んで、月日が()つのも気づかないほど無我(むが)夢中(むちゅう)の人生だった。そうして今日、ついに私の俗世間での一生は終わるのだ」

年が明ければ新年のご挨拶(あいさつ)にたくさんのお客様がいらっしゃる。
いつも以上のおもてなしをするよう決めておかれる。
親王(しんのう)様や大臣(だいじん)様たちへのお土産(みやげ)、その他の人たちへのご褒美(ほうび)など、()しげもなく見事にご用意なさった。