野いちご源氏物語 四〇 幻(まぼろし)

十一月。
内裏(だいり)儀式(ぎしき)で、貴族の娘から選ばれた舞姫(まいひめ)(まい)披露(ひろう)する。
神聖(しんせい)だけれど華やかな舞を世間は楽しみにしている。
ちょうど大将(たいしょう)様のお子たちが内裏で見習いを始めたということで、大将様が二条(にじょう)(いん)にお連れになった。
年の近いご兄弟ふたりがとてもおかわいらしい。

雲居(くもい)(かり)弟君(おとうとぎみ)たちが叔父(おじ)として後見(こうけん)していて、ご一緒にいらっしゃった。
儀式のための神聖なお着物がよくお似合いの若者たちよ。
心配事など何もないように楽しそうにしている。
源氏(げんじ)(きみ)はご自分の青春時代を思い出された。
実は源氏の君は舞姫と恋をなさったことがある。
短い縁で終わってしまったけれど、なつかしい記憶なの。
<すっかり世代が変わった。この若者たちが舞姫と恋に落ちるころ、私はぼんやりと、亡き妻を思って涙を落とすのだ>