野いちご源氏物語 四〇 幻(まぼろし)

十月。
時雨(しぐれ)が降ると夕暮れの空も心細くお感じになる。
「ただでさえ雨の多い時期だが、今年は私の涙も加わって(そで)が重い」
独り言をおっしゃって空を(あお)がれる。
雲の間を夫婦の(かり)が飛んでいく。
うらやましいとじっとご覧になる。
(まぼろし)の力を持つ者が空にいるなら、あの世へ行って(むらさき)(うえ)(たましい)がどこにいるか探してきてほしい。まったく夢にさえ現れてくれないのだ」
何を見ても紫の上のことを思い出されるの。