野いちご源氏物語 四〇 幻(まぼろし)

九月。
重陽(ちょうよう)節句(せっく)の日には、長生きを祈るおまじないをするの。
(きく)の花に()りた(つゆ)綿(わた)()わせて、その綿で体をぬぐう。
二条(にじょう)(いん)のお庭の菊にも綿がかぶせてある。
「これ以上の長生きをしたところで」
紫の上はもういらっしゃらない。
朝露(あさつゆ)よりも重い涙がお(そで)に落ちる。