年が明けた。
新春(しんしゅん)の光をご覧になっても、源氏(げんじ)(きみ)のお心が晴れることはない。
(むらさき)(うえ)がお亡くなりになって、日が()つにつれてお悲しみは深く、暗闇(くらやみ)をさまよっているような気がなさる。

二条(にじょう)(いん)には、新年のご挨拶(あいさつ)のためにつぎつぎとお客様がやって来る。
でも源氏の君はご体調が悪いとおっしゃって、お部屋の奥深くでじっとしていらっしゃるの。
弟宮(おとうとみや)であられる兵部卿(ひょうぶきょう)(みや)様だけには、お上がりになるようお伝えなさった。

「すっかり陰気(いんき)な屋敷になってしまいました。お越しいただきましても何も楽しいことはございませんのに」
というご伝言に、
「だからこそ参ったのですよ」
と宮様はお返事なさって、お庭の紅梅に微笑みかけながらお姿を現された。
しっとりと優美(ゆうび)で、源氏の君と一番お心の通じあった宮様でいらっしゃる。

紅梅の花はやっと開きはじめたところで、さりげなく(にお)い立っている。
風流(ふうりゅう)な宮様がお越しでも、喪中(もちゅう)の源氏の君は音楽会をなさらない。
いつもとはまったく違う雰囲気のお正月なの。