風が吹くと、桜の花びらが沢山舞い落ちていく。桜はこんなに簡単に花びらが落ちてしまうのに、木を見上げれば幹が見えないほどピンク色で染まっている。

私の前では珀人が「桜って本当に綺麗だよな」とはしゃいでいる。

「いなくならないでよ」

そう小さく呟いた自分の声が耳にこだまする。

珀人に聞こえない声で呟いたのは私なのに、どこか届いて欲しいと願ってしまう。

そんな自分勝手な感情に嫌気が差した。

「伶菜! 早くしないと遅刻するぞ」

私は名前を呼んでくれる珀人のそばまで駆け寄った。

6月25日に向かっていく時間を止めることは出来ない。

5月に入れば焦りは大きくなり、何も変わっていないようで心の焦りだけが大きくなっているようだった。

「自殺の原因を探すより、死にたくならないように楽しんだ方が良くね?」

その言葉に納得していたはずなのに……それはつまり何もせずに6月25日を待つことになるのではないかと不安になってしまう。