「会田さん?」

 名前を呼ばれて、反射的に振り返る。

「丹野くん……」

最近、丹野くんを避けていたので話すのは久しぶりだった。

丹野くんは当たり前に珀人とは違って冬服だった。

校内なら心の準備も出来ているのに、会うと思っていなかった場所で突然話しかけられると冷静な判断が出来ない。

「会田さん、女の子が一人で夜に出歩くのは危ないよ。早く帰った方が……」

普段なら優しい丹野くんだと思う所だろう。

でも、今の私の隣には珀人がいるのに。

丹野くんに珀人は見えていないのだから、丹野くんは何も悪くない。

悪くないと分かっているのに、胸が締め付けられるようだった。珀人の顔を見ることが出来ない。

「でも、会田さんに今日会えて良かった」

突然の丹野くんの言葉に私は返答出来ない。

「最近、避けられている気がして不安だったんだ。クリスマスに会田さんに会えると思ってなかったから嬉しい……って、急にこんなことを言われても怖いよね。ちゃんと伝えたいことから伝えないと」

どうして私は珀人の大事な言葉を忘れていたのだろう。

珀人はちゃんと伝えてくれていたのに。

初めて話した放課後に丹野くんは私を好きになっていた、と。

どうして忘れていたのだろう。

丹野くんはもう私のことを好きでいるという大事すぎることを。