6月25日、彼は。

「伶菜にしか見えなくて触れることも出来ない俺じゃ駄目?」

「ちがっ!」

「でも、あいつじゃだめなんだよ。教室にいる俺じゃお前を助けられずに一緒に死ぬだけなんだ。それとも、俺の言っていることが信じられない?」

珀人が嘘をついていないと分かっていたはずなのに、きっと私は心のどこかで自分は自殺なんてしないと思っていた。だって、いま全く死にたくないのだから。

「俺が伶菜と一緒にいるからあいつと話さないで」

珀人はいつだって素直に私に気持ちを伝えてくれているのに、私は珀人から向き合わずに逃げてばかり。そんなのは嫌だった。

「私ね、珀人が目の前に現れた時、本当はとっても怖かったの。手を上げて教室から出た後に珀人がついて来なければ、そのまま逃げようと思っていた。でも、珀人は当たり前みたいについてきてくれた」

秋の風は夏と違う。

蒸し暑さの代わりにどこか涼やかさを含んでいる。