珀人はそれからも暫く私に近づかなかった。

たまに校内で見かけるから近くにいることは確かなのに、いつものようにそばに寄って来ない。

私も自分から声をかけることが出来なくて、お互いに気まずい空気が流れ続けていた。
 
休み時間も珀人のことを考え続けてしまって、でもどこか考えたくなくて、思考を止めるように目をぎゅっと(つぶ)る。

その時、誰かが私の席の前に立ったようだった。

「会田さん、大丈夫?」

パッと目を開けて顔を上げると、丹野くんが立っている。

「先生に数学の課題を集めるように言われたんだけれど……会田さん、体調悪い?」

「ううん、大丈夫! ごめん、すぐ出すね」

私が机の中から提出用のノートを取り出していると、丹野くんがクスッと思い出したように笑った。