歩道から少し離れたベンチの声は他の人には聞こえないだろう。

歩道を歩いていく人達を気にせずに話すことが出来る。

7月に入った気温はさらに上がり、木陰にいても汗は流れてくる。

7月でこんなにも暑いのなら8月はどうなるだろう、と思ってしまう。

そんな関係のないことが頭をよぎり、私は慌てて思考を本題に戻した。

「確か4月の上旬だったと思うけれど……」

「そんな前!?」

「私がね、シャーペンを落としたのを拾ってくれたの」

「そんなしょぼいことを覚えている訳あるか!」

珀人が今まで聞いたことがないくらい大きな声を出している。

珀人が幽霊じゃなかったら、きっと歩道を歩いている人にまで届きそうな声量だった。