「伶菜がどれだけ嫌がっても、俺は付きまとうからな!」

「ストーカーじゃん。ていうか怨霊じゃん!」

教室に響き渡る好きな人と私の会話。

他の人からは私の独り言に聞こえているのだろうけれど。

「でも丹野くんにすぐに近づいたり、告白したりするのはやめる。私が死ぬとして、丹野くんを巻き込む可能性があるなんて絶対に嫌だから」

そう話した私の顔を珀人が(いつく)しむような目で見ている。

悲しさを秘めているような、どこか暗さを秘めている瞳だった。

教室の暑さすら忘れそうになる。それでも、風の音だけは耳に入ってくる感じが気持ち悪かった。

「珀人?」

「いやー、伶菜は眩しいなぁって。アホなだけかもだけれど」

「ちょっと!?」

珀人の雰囲気はもう普通に戻っていた。
 
夏の風が通り過ぎていく。

冬の冷たさとは全く違う暖かさを含んだ風は、私の頬に擦れていく。

そんな風すら幽霊の珀人はもう感じられないと思うと、どこか心がキュッと(しま)ったのが分かった。