野いちご源氏物語 三八 夕霧(ゆうぎり)

日が暮れていく。
(きり)が立ちこめて、山のふもとにあるこの別荘は薄暗い感じになった。
(ひぐらし)が鳴く。
お庭の秋草(あきくさ)の花は自由気ままに咲いて、小川の水音が涼しげに聞こえる。
ときどき山から風が強く吹いてきて、松にあたって怖いような音を響かせる。

御息所(みやすんどころ)のためのお(きょう)()()なく読まれている。
こういうところではすべてのことが心細く思われて、大将(たいしょう)様はしみじみと物思いなさる。
お帰りになる気にはなれない。