野いちご源氏物語 三八 夕霧(ゆうぎり)

お手紙をたびたび送って、お迎えも派遣(はけん)なさったけれど、お返事さえない。
意地(いじ)を張って軽率(けいそつ)なことをなさる>
いっそ放っておきたい気もするけれど、あちらの父君(ちちぎみ)がどうお思いになるか気がかりで、日が暮れてからご自分でお迎えにいかれた。
雲居(くもい)(かり)が里帰りしたときにお使いになるお部屋には、お子たちと乳母(めのと)、あとは女房(にょうぼう)しかいない。
肝心(かんじん)の雲居の雁は女御(にょうご)様のお部屋に遊びにいっておられるみたい。

(むすめ)時代に戻ったようなお振舞いではないか。母親としての自覚が感じられない。幼い子どもたちを放っておいて、何が女御様とのご交流だ。
私とは性格が合わないと思っていたが、昔からどうしても()かれる人で、しかも今は子どもがたくさんいるのだから、もう離れることはないと信じていた。ちょっとした浮気でこのようなひどいことをなさるとは>
女房を通じて(うら)(ごと)をおっしゃると、やっとお返事が届いた。

「すっかりあなたに()きられてしまいましたから、もうあちらに戻るつもりはありません。これ以上我慢したくないのです。子どもたちの将来だけお世話していただければ満足です」
「これはこれはご丁寧なお返事だ。冷静に考えて、どちらが世間から非難(ひなん)されるでしょうね」
それ以上はおっしゃらず、大臣(だいじん)(てい)にお泊まりになる。

(みや)様には冷たくあしらわれ、妻からは(にく)まれ、どっちつかずになってしまった>
お子たちが寝ておられるそばにご自分も横たわって、ぼんやりお考えになる。
<新婚だというのに、昔からの妻といざこざを起こして放っておかれては、宮様はまたお(なげ)きだろう。世間の男は楽しそうにあちこちに恋人をつくっているが、こんなに胸騒ぎがすることをどうして楽しめるのだろうか>
もうこりごりだとお思いになる。

朝になって、やっと雲居の雁は大将様とお子たちの待つお部屋にお戻りになった。
「世間には軽率だと笑われるでしょうがね、どうしても無理とおっしゃるなら、一度別れて暮らしてみましょう。あちらの屋敷に残された子どもたちは母君(ははぎみ)を恋しがって泣いていたけれど、あなたにとってはいらない子たちなのですから仕方ありません。かわいそうなので私がどうにかして育てましょう」
(おど)すようにおっしゃると、雲居の雁ははっとなさる。
(おんな)()(みや)様のところで育てていただくおつもりだろうか。ここに連れてきた子たちもみんな連れて、宮様のところで新しいご家庭をお始めになるのだろうか>
それは嫌だとお思いになる。

大将様は小さな姫君をおそばにお呼びになる。
「さぁ、いらっしゃい。お父様はもう恥ずかしくて、これからめったにこのお屋敷には来られなくなるのです。それでは姫が心配だから、お父様と一緒にもとの家に戻りましょう。あちらにはお兄様たちがいますよ。せめて兄妹(きょうだい)ご一緒にお世話してあげましょうね」
まだとても幼くて、かわいらしいお顔できょとんとなさっている。
「お母さまのお言いつけを守ってはいけませんよ。頑固(がんこ)で聞き分けのない女性になってしまう。それは悪いことですからね」
聞こえよがしにお教えになるの。