野いちご源氏物語 三八 夕霧(ゆうぎり)

大将(たいしょう)様が(みや)様のお屋敷で何日か過ごされていたころ、三条(さんじょう)(てい)のご正妻(せいさい)は家出の準備をなさっていた。
<いよいよ私は捨てられてしまった。まさかあちらに行かれたきりにはならないだろうと信じていたのに。真面目な夫が心変わりをすると昔の妻のことなど完全に忘れてしまうというのは本当だったのだ>
夫婦関係などあっけないものだと思い知らされた気がなさる。
<これ以上の恥はかきたくない>
と、ご実家へお戻りになった。
ちょうど姉君(あねぎみ)女御(にょうご)様が、新上皇(じょうこう)様のお住まいから(さと)()がりしておられたからご対面なさる。
よい気晴らしになるとお思いになって、いつものようにすぐには三条邸にお帰りにならない。

大将様は宮様のお屋敷でそれをお聞きになった。
<あぁ、やはり突拍子(とっぴょうし)もないことをなさるご性格だ。父君(ちちぎみ)の元太政(だいじょう)大臣(だいじん)様もおっとりしたご性格ではいらっしゃらないから、父娘ですぱっと結論をお出しになるだろう。『腹が立つから会ってやらぬ、話も聞いてやらぬ』となったら、大事(おおごと)になってしまう>
あわてて三条邸にお帰りになると、ある程度大きい男の子たちは残っている。
姫君(ひめぎみ)たちと赤子(あかご)だけをお連れになったみたいなの。
父君がお帰りになったことをよろこんではしゃぐお子もいれば、母君(ははぎみ)を恋しがって泣いているお子もいる。
大将様は苦々しくお思いになる。